ファイル その2「マーガリン事件」 1999年8月。夏も終わりに近づいた時です。 以前から鼻気管炎ウィルスにかかっていた小鉄が体調を崩し始めました。 その前年の冬にも、食欲が激減し危険な状態に陥ったのですが 投薬と注射、それと従業員みんなで小鉄の生活環境を整える事によって 難を一端、逃れ、なんとか小鉄は冬を乗り越えました。 夏の間、元気に過ごしていたのに急に元気がなくなり 心配になったので、私は社長と一緒に一駅先のビビやサノを 診て貰っている動物病院へ走りました。 血液検査の結果、白血球が異常な数値を示していました。 そして先生に―まだ、発症はしていないけど白血病のウィルスが 小鉄の体に入り込んでいるかもしれない―という事を告げられたのです。 でも、小鉄の状態が何に起因しているのかという事については 獣医さんも見当がつかないようでした。 何日か病院へ行って点滴をしてもらいましたが 一向に持ち直す気配が感じられませんでした。 誰もが「もう、あかんやろう。」と覚悟を決めていたと思います。 八月の末。私は社長に思い切って言いました。 「連れて帰ってもいいですか?」 最初、社長は驚いたようでしたが困惑しながら答えられました。 「・・・淋しくなるけどなぁ。ここで死なすのは可哀相やしなぁ。」 実は、そういう私も迷いながらの「申し出」でした。 ビビとサノ、あの二匹と仲良くしてくれるだろうか? 回復するともしれない小鉄を連れて帰って、本当に小鉄のために なるだろうか?と―。 9月1日。朝、私が小鉄の様子を伺っていると 社長が「小鉄、どないや?」と聞いてきました。 「んー。・・・なんとも・・・。」重たい口調の私の返答に 何か、動かされたのか社長は「連れて帰ってみるか?淋しいけど。」 本当に淋しそうでしたが、私にそう言いました。 「元気になってくれたら、いいんですけど・・・。」 「わからんけど、な!ダメ元で・・・小鉄を任せるわ。」 ―そういう経緯で、小鉄は我が家へやってきたの、で、す、がぁ。 思いのほか小鉄は見る見る元気を取り戻し、ウィルスなんて、なんのその! あの死にかけていたニャンコとは思えないほどに元気になりました!! それからです!こんな事になろうとは夢にも思わない事態が 我が家で起こり始めました。 よくよく考えると、会社には食料品などありません。 お昼に食べる、お弁当くらいのもんです。 お行儀がいいと思っていた事が見事に覆されていきました。 「おでん」を作れば鍋をひっくりし、買い置きの食パンは 買ってきた日の晩に食覇され、下痢と嘔吐と繰返しました。 そんな時、いつも病院へ行くと「絶食させてください。」と言われます。 最近は、少々何を食べてくれても対応が解ったので病院へは 連れていかず、ただただ絶食させるのみです。 ある時、マーガリンを終い忘れて出かけた日の事。 家に帰ると、小鉄が出迎えに来ません。もうピンとくるようになっていました。 「何か、したな。」と思ってネコのトイレを見ましたが それらしき形跡は、ありません。 おかしいな、と思ってリビングに行くと・・・。 何やら、透明の液体のようなものが散々に床や絨毯にこぼれています。 そして、台所をみました。―ショックと脱力感に襲われました。 まだ1/3しか使ってなかったマーガリンが殆どないのです! 私はすぐさま小鉄を病院へ連れて行きました。 行くと、先生に「今度は、何食べたの?」と言われました。 先生も慣れっこになっていました。 私は状況と症状を説明しました。 先生は分泌物を採取し、結果を述べられました。 「見事に『油』のみだね!それ以外はキレ~イに、何もないくらい 油のみになってますよ?かなり食べたんだね~小鉄く~ん。」 恥も何もあったものではありませんでした。 「先生、このような場合はーどう処置するべきでしょう?」 不安げな私に先生は、明るく方法を伝えてくれました。 「いくつか、あるんだけどねー。即効性のあるモンの方がいい?」 「・・・できれば、そう願いたいんですけど・・・。」 「じゃ~、バリウム飲ませましょう♪嫌がると思うけど。」 「止まればいいです。お願いします。」 先生は冷蔵庫から哺乳瓶のようなものを出してきました。 「バニラ味しかないんだけどな~飲んでね?小鉄君。」 そう言って先生は診察台に座る小鉄の口元へビンを宛がいました。 わたしは、先生に言われるままに小鉄の足を持っていました。 「は~い。小鉄くん、お口あけようね~。―こういう場合 歯がなくて良かったね?噛まれると痛いもんね?」 そんな事を話しながら先生はバリウムを飲ませてくれたのですが・・・。 小鉄は、物凄い勢いでバリウムをゴクゴク飲み出したのです!! 「うわ~~~~~!すごい!すごい!すごい!うわぁ~! 何~?この子!すごいね~♪」先生も私も小鉄の以外な展開に 目を白黒させながら小鉄を見ていました。 しかも先生は、とにかく興奮されていました。 「先生、こんな子いてますか?」 「ン~~~♪まず、いない、いない!飲ませ甲斐あるなぁ~♪」 「先生、私ちょっと恥ずかしいんですけど。」 「いや~~~珍しいもん診たなぁ♪すごいよ?だって!」 「そんな、すごいんですか?」 「う~ん!すごい!こんなに『喜んで』飲んでくれた子、初めてだもん♪」 「普通、けっこう嫌がるものなんですか?」 「ううん。とてもとても!飲ませられない!って感じ♪」 「でも、どう見ても喜んでますよね?」 「嬉しいなぁ~♪ど~んどん入ってっちゃうもん!」 「恥ずかしい・・・。」 「生まれて初めてっていうか、今まで何だったの?と思うくらいにスゴイ!」 「はぁ・・・。」 そして、あっという間にビンがカラになりました。 「は~い!小鉄君、もう終わりね?」と先生はビンを離しましたが 小鉄は真っ黒な目でビンを探してキョロキョロしていました。 そこで先生は一言―。「まだ、欲しいみたいだね?」と言いました。 私は、もう恥ずかしくて恥ずかしくて・・・仕方ありませんでした。 その後、家に帰るまで、ずっと小鉄はバリウムの再請求をしていました。 「アウアウ~!アウアウ~!」 ~ コテリへ ~ もう、あんな恥ずかしい事、私はごめんでしゅ。 ジャンル別一覧
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